2008年04月18日
雪花~冬に咲いた花~ 第2章
「へぇ・・・・・」
「ふん・・・・・・」
「な、なんだよ、話せって言ったから僕は話したんだぞ!」
いつしか、日は落ちて。
夜。
昼間、あれほどアスファルトを焦がしていた日の光。
それも遠くにうっすら、辛うじて茜色に存在を主張する夕日。
そして地面、そうアスファルトからの照り返し熱が、その余韻を今に引きずっていた。
今は、すでにその鋭い熱はなく。
あるのは、余熱、そして涼しげな風だけ。
工場のすぐ横に、工員の休憩用に置かれた、古い、かなり年季のある自動販売機とベンチが置かれたスペース。
自動販売機には、会社のステッカーやら、落書き(小さい頃、尋がやった)、そしてなにより、筆で『新田整備』と書かれていた。
ベンチも、元の色が難であったのか尋ですらわからない、いつこわれても可笑しくない老朽な物。
ただ。
その二つは、そこにたしかに己が『存在』を主張し、今も現役を守っている。
外灯の明かりの中、三人はおのおのの缶ジュースを片手に、そのベンチに座り夜涼みにと、昂じていた。
先ほど。
強制的に連行され、隆俊は遅れた理由である『事』の真相を文字通り洗いざらし吐かされた。
最初は、二人とも興味心身でその話に聞き入っていた。
が。
話が、公園で会ったのにも関わらず話もしなかった、と言う事実を知った瞬間。
二人は盛大なため息をつき、
「うわ・・・・興ざめ。さて、自動販売機にでもいこうか」
「つまらん、二束三文。そうだな、喉もかわいたし」
二人はそう捨て台詞を残し、さっさとガレージから出て行ったのだ。
隆俊は、半ば呆然。
あれだけ無理やり聞き出しておいて、お前らはそれか、と。
(話せっていっとおいてそれはないよな・・・)
隆俊は憮然としながらも、二人の後を慌てて追った。
そして、今にいたるのである。
「あの公園にいるってことは、あの区近辺にすんでいるんだろうけど・・・・・」
「通学路の途中だから、会っても不思議じゃないのに・・・・今までそんな犬を連れた子は見たことないね」
「見落としてるだけじゃねえの?札幌にどれだけ人間が住んでると思ってんだ」
「しかし、そんな子、見たことある?」
某紅いラベルの炭酸飲料をあおりながら、尋は慶介に話をふる。
ふられた慶介は、一気に飲み干した茶のペットボトルを手で持て遊びながら、虚空を見つめる。
いつもの、考えている時の慶介のクセ。
他の、彼を知らない人間がみれば、『え?ナニカミエル?』と思わず正気を疑ってしまいそうな、そんな様子。
つかの間の沈黙。
慶介の口が開く。
「なぁ、尋、俺がそんなこと知ってると思うか?」
「うん、意外にあんがい、ない。ありえない。それこそ天地がひっくり返っても」
「・・・・・・」
その時。
隆俊は、涼しくなった外気温がさらに『下がった』ように感じた。
睨みを利かせる慶介。
元々が柄があまりよくないせいか、彼の視線は非常に怖い。
が、あてられた当の本人は、なんのその。
「だったね。慶介女ッ気皆無だし」
「たしかに」
慣れ、であろうか。
ものともせずに、彼はある種『暴言』をほきまくる。
隆俊もそこは同意。
「この前も、クラスの佐伯さんだった?慶介が話し掛けただけで涙目」
「あれは可愛そうだったね。トラウマになってないか心配だよ」
「・・・・・・ベキ(ペットボトルがへこむ音)」
「そのまた前は、須々木さんだったかな。落ちた教科書渡しただけで、逃げられた」
「彼女、恐怖で顔がひきつってたね。これで悪評がまたふえていく」
「バキッ!・・・・・ベキッ!!(ペットボトルが『砕ける』音)」
「まぁ、あの『顔』だしね」
「うんうん」
今度は仕返しとばかりに隆俊も笑いながら口を出す。
しかも、本人が『かなり』気にしていることを。
楽しげに友をイジル二人。
だが、二人は肝心なことに気付かなかった。
「ほう・・・・・・貴様ら、そんなにもこの場でマントルまでノックダウンされたいようだな・・・・・くくくくくく・・・・・・・」
彼は、冗談が時々『通じない』事を。
(あ、やべ)
慶介はユラリと立ち上がり、拳の骨をバキバキ言わす。
その足元には、原型の留めていない程に破壊されたペットボトルだった『何か』
目は、当然のことながら、『据わって』いた。
背中からは、なにやら全てを覆い尽くすかのように広がる『黒』のオーラが。
この招かざる事態に二人は思わずあとづさる。
いかん、やりすぎた
二人がそう思った時には、ときすでに遅し。
彼等の本能が警告をだしていた。
『ヤバイ』、と。
「「ま、まぁまぁ・・・・・・(汗)」」
冷や汗をかきながら目の前の猛獣をなだめる二人。
しかし、猛獣は一度怒らせてしまうと、手がつけられない。
「しねぃ!!」
猛獣の死の拳が翻る。
が、次の瞬間。
「何してんのよこのバカ!!」
ガスン!!!
「がはっ!?」
頭が盛大に前のめりにふっとんだのは、慶介の方だった。
二人は、彼が倒れてゆくのを見届けながら、後ろに立つ女性に向かって。
「なにやってんだか・・・・・あ、みんなこんばんわ~」
「「・・・・・」」
無言で手をふる二人。
白のワイシャツ。
紺のチェック生地のネクタイ。
紺の、少し規制よりも短めなスカート。
それは彼等と同じ高校の制服。
セミロングの、茶のかかる髪。
元気。
その言葉が、雅にシックリとくる、『可愛い』といった表現が適切な、彼等と同年代の少女が、カバンを振り下ろした状態で、その場に立っていた。
草薙 柚。
高校の同級生であり、この取り巻きのメンバーの一人。
それでいて、尋の通い妻・・・ならぬ『彼女』だ。
「・・・・く・そ、元ヤンのくせ「バキ!」きゅう・・・・・」
「あらぁ、何かいったかしらー?小野君ー?」
ダメージから回復した慶介。
しかし、そこで余計な一言が、彼の寿命を著しく削る事になる。
彼女のスレンダーな足で繰り出されたローファーの一撃が、慶介の後頭部にクリーンに、そしてダイレクトヒット。
・・・・・・返答なし。
天に召されたようだ。
・・・・・・そう、彼女、元は地元でも有名な暴走族・・・・・まぁ俗に言うところの『レディース』のメンバーだった。
今は足を完全に洗っているが、今のように時よりその『片鱗』を見せることも多々ある。
本人は、これでもひた隠しにしているが。
結果が、この屍。
無論、それは、慶介の自業自得であるが。
二人は思った。
腰に手を置いた、『草薙 柚』がいやに輝いている、と。
「おおお!さすがマイ彼女!彼氏の危機に駆けつけるなんて素晴らしいんだ!!」
尋は目から涙みたいな『何か』を流しながら、しかと柚を抱きしめる。
「ちょ!ば、バカ!!?やめなさい、こんなところで!!」
柚は顔を少し赤くしながら嫌がるが、力ずくでは引き離さない。
まぁ、なんだ。
ラヴラヴなのであって。
二人は、去年の夏。
そう、隆俊達が夏休みの真っ只中、付き合い始めた。
いまでこそ、これだけ仲がよいが、出会った当初はそれはもうやばかった。
なんせ、二人の出会いは、彼女の拳を尋が『食らった』ことから始まったのだから。
慶介と隆俊は、その場に居合わせていたので、それはもうよく覚えている。
まぁ、この話は、いずれどこかで話すであろう。
そんなこんなで、この4人でよくつるむことが、多かった。
4人でいるだけで、ただ、楽しかった。
そう。
ただ、それだけで。
隆俊はいつも、思う。
この瞬間は、実はとても、貴重なものなのではないかと。
4人の談笑と言う名のじゃれあいは、こうして夜遅くまで続いた。
*
見上げるは、蒼空。
見返すは、喧騒の中の、通いなれた通学路。
「今日も暑くなりそうだなぁ・・・・・」
早くも熱を発し始めたアスファルトを使い古した黒のスニーカーで歩きながら、隆俊の、朝一に発した声が、それだった。
暦の上では、すでに残暑通り越して秋に入ろうと言うのに、この天気。
その癖、夜になるとグッと気温は落ちる。
まさに体調をくずしてください、そう言っているかのような環境だ。
証拠に、道を歩いていく制服姿の中にも、咳をしている者も少なくない。
隆俊は、体調こそ崩してないが、朝の寝苦しさにやられて、かなり体がダルい。
登校する足も、俄然遅くなる。
まぁ、しかし。
「おっす」
「・・・・・・はよー」
「おはよ」
一人じゃ、ないからこうしてやっていけるというものである。
カバン片手に白の半袖Yシャツに黒スラックス姿の慶介と尋。
そして、同じようにYシャツにスカート、ソックスにローファー姿の柚。
尋と柚は朝が基本的に強いので、この時間帯にはすでに目のさめた顔。
しかし。
「ねむ・・・・・・」
歩きながらも、船をこぎそうになっているのが約一名。
そう。
このメンツの中で唯一朝に致命的に弱い男、小野慶介。
その細くなった目は、開いては閉じ。
開いては閉じ。
開いては閉じ。
閉じ。
閉じ。
閉じ・・・・・・
「寝るな!」
バカン!!(柚の放ったカバンが後頭部にヒットする音)
ガスン!!(アスファルトに盛大にキスする音)
シーン・・・・・・
「「「・・・・・・・」」」
動かない。
しかも、紅いナニカがアスファルトに飛び散って。
朝から、バカみたいにスプラッタな映像。
息を呑む。
そして。
隆俊と尋の視線は、ゆっくりと柚の方へ。
ワタシ!?、と言った顔でギョッとする。
が。
次の瞬間。
ダン!
「がはっ!!?だ、だれだ俺のジャイロパン食ったの!!」
(((・・・・・ジャイロパン・・・・?)))
「あれを食わないと、校長に勝てない!!」
(((・・・・・校長・・・・・?)))
勢いよく立ち上がった慶介。
しかも、ネックスプリングで無駄に機敏に。
目は、なぜか明後日の方を『凝視』
柚に叩かれた事を突っ込まずに、慶介は意味不明な事を吹く。
しかも、イッチャッテル人さながらの大声で。
ちなみに、ここは通学路。
時間的にも、学生がもっとも多く通る時間。
しかも、ジャイロパンとはなんだ?
校長?
「「「・・・・・・」」」
周りを恐る恐る見回す3人。
「クスクス・・・・・」
「なんだ、あれ・・・・・バカじゃねえの・・・・」
「うわ、またあいつだ・・・・ウケル」
「見ないフリ・・・・・・」
痛い。
視線が、痛い。
すごく。
すごく痛い。
3人は顔を見合わせる。
その目は、皆、同じ事を物語っていた。
すなわち『置いていく』と、言う最終手段を。
「さ、さて・・・・・」
「ま、マイ彼女、学校にいくとしようか・・・・」
「そ、そうね、おほほほ・・・・・・」
全てを無かったことにして。
彼等は通学路を歩いてゆく。
今だ、状況・・・・・いや空気の読めないバカを、一人残して。
*
公立氷ヶ丘高等学校の体育館は広い。
つい最近、新装されたが、その設備と綺麗さに皆、最初は驚いた。
系8のバスケットゴール。
そのうちの4つは、電動で天井から降りてくる。
更衣室、放送室、舞台設備・・・・
言い出してしまうときりが無いほど、整っていた。
しかも、この『広さ』
現在のように、全校生徒約700人を一度に収容でき、なおかつ充分すぎるほど余裕があるこの広さ。
朝、突然周知された、臨時の全校集会。
そんな敷き詰められた制服の群の中、隆俊はいた。
『・・・・・で、あるからして、我が高生徒諸君には・・・・・』
響き渡る、眠気を触発するかのような校長のマイク越しの声。
ふと、高いを見上げる。
煌煌と、広い空間を照らすために設置された白熱灯が、等間隔に敷き詰められた、いつもの馴染みの風景。
しきつめられ、そして交互に支えあう柱の欄列。
数を、数えてみる。
1、2、3、・・・・・
・・・・・150まで数えて、飽きる。
しかし、いつ聞いてもこの狸みたいな体系をした校長の話はつまらない。
周りには、欠伸をかみ締めながら、いかにもダルそうに立つ慶介。
立ったまま、船をこいでいる。
そのうち、前の奴にぶつかるのも時間の問題だろう。
ちなみに、先ほどの記憶はガッツリ『抜け落ちて』いた。
その後ろには、また欠伸をかみ締めている尋。
ボケっとしながら、舞台の方で長々と最近の私生活と怖い奥さんの愚痴を履いている校長の話がいつ終わらないかという眼差しで、ガン見している。
彼、校長の話が本当に嫌いなのだ。
この前の集会の時も、他の生徒に混じってヤジを飛ばしていたぐらいだ。
まぁ、最近の若者はなってない、などという抽象的な表現だけで批評する校長も悪い。
『・・・・・さて、時間もないので、そろそろ本題に入ろう』
(((((((((((前フリ長げえよ!!))))))))
ようやく校長の口から出た、終わりを思わせる発言い、全校の心が一つになった。
本人にしてみれば、そんなもの知ったところではないのだが。
『全校諸君!君達は、この日、この場所にいたことを、きっと一生忘れることはないだろう。そして我が氷ヶ丘高校にとっても、『彼女』を迎えることは、非常に名誉な事である』
「・・・・何の話だ?」
その大層な口上に違和感を覚えたのか。
呟くように言葉をおとした慶介。
「さぁ・・・・・・」
尋は、首をかしげながらも、校長の話に集中した。
周りも、同じ心境のようで。
目線は、舞台へと一斉に集中していく。
その視線に満足したのか、校長は満を持したように、言い放った。
『紹介しよう!若干17歳で日本ジュニア選手権、世界ジュニアフィギュアスケート選手権を制した天才!!『氷上のダンシングドール』女子フィギュアスケーター・上月 沙夜さん!!』
興奮気味の校長の高々の言い放った声。
しばしの合間の末、ひらめく舞台袖。
目線は、みなその方向へ。
そこから現れたのは、ゆっくりと歩いてくるこの高校の制服を身に纏った女の子。
彼女の姿を、確認した途端、
「は?」
慶介は目を見開き。
「ん?」
尋はポカンと口を開け。
「・・・・・・・」
そして隆俊は、文字通り『固まった』
比喩表現抜きに、舞台から目が離れなかった。
そう。
その、ココの高校の制服を着た女子生徒。
彼女は、まぎれもなく。
昨日。
あの夕暮の中。
公園で出会った、『彼女』だったのだから。
端正、それでいて小さな顔に収まる、小さな、紅い唇。
少し大きめで、それでいて真っ直ぐな双眸。
ショートボブに、耳の前に少し長めの髪。
純白の真新しい制服が、そんな彼女にとてもよく似合っていて。
その姿にも、隆俊は見惚れそうになる。
まぎれもない。
『彼女』が、舞台に立っていた。
奇跡。
夢だというのなら、これほど覚めてほしくないと思ったことはない。
「おい、まさか昨日会ったってのは・・・・・・」
その様子に気付いたのか、慶介は恐る恐る聞いた。
気付けば尋も近くまで来ている。
二人の視線の中。
隆俊は、弾かれたかのように驚愕の顔で振り向き。
「うん・・・・・」
ゆっくりと、自分でも信じられない現実に戸惑いながらも、頷いた。
その瞬間。
『ワァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』
この巨大な体育館が、『震えた』
慶介と尋の驚愕の声すらも掻き消す『怒涛』の歓声が、上がった。
周りの教師達がすぐさましずめようと躍起になっているが、中々収まらない。
無理も無い話ではある。
目の前に現れた転校生。
それが、今なにかと話題にあがるフィギュアスケートの、若きホープなのだから。
スポーツ新聞、深夜のニュースでは数え切れない程ピックアップされ、知名度もすごい。
しかもその選手としての実力も非凡。
5歳より、関東でも有名なフィギュアスクールに入門。
その頃から非凡なる才能が開花、メキメキとエリートコースを突き進む。
ノービス・ジュニアと、国内では間違いなくトップクラスの実力。
今期より、シニアに昇格。
シニア大会にも出場していた。
そしてなによりも、彼女の代名詞と言えるのが、『4回転ジャンプ』
男子でも高難易であるこのジャンプ。
彼女は、それを抜群の成功率で決める。
今まで彼女が手にしてきたタイトルも、その存在があってこそだ。
あの美貌。
そして起伏の少ない感情とは裏腹に氷上ではアグレッシブに駆ける彼女は、人気があった。
ちなみに、普段テレビをほぼ全く『見ない』三人にとっては、知るはずもなく。
歓声の中。
ただ、驚く。
壇上の『彼女』が、マイクの前に立つ。
そして発せられるは、まるで鈴を鳴らしたかのように、流麗で、それでいて耳に残る綺麗な声。
『氷ヶ丘高校の皆様、はじめまして。上月、沙夜です』
湧き上がる歓声。
それに、彼女は笑顔で答え、話を続ける。
『これから、私は2年生としてみなさんと同じ学び舎で過ごすことを本当にうれしく思います。なれないことも多いかと思いますが、よろしくお願いします』
そして、スッと頭を垂れる。
その仕草一つ一つが、堂に入っていて、やはりマスコミ、人になれているのが隆俊はよく分かった。
壇上から、彼女が手を振りながら、降りていく。
「・・・・・・!!」
一瞬。
澄んだ、そして透き通るような双眸と。
隆俊の漆黒の瞳が。
「「・・・・・・・・」」
ほんの少しの間であるが、隆俊と、沙夜の視線。
それが交錯する。
隆俊は、突然の事にまた硬直し。
彼女は、その完全無欠の双眸を一瞬『揺らした』
そして何事も無かったかのように、校長に促され、体育館を後にしていく。
(彼女が・・・・・・・)
隆俊は、しばし『ぼうっ』としながらも、彼女の後姿を見ていた。
まるで。
昨日の公園の時のように。
Posted by らいとすたっふ-小説- at 16:35│Comments(0)
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